みったん 「みったんだぞ、ガオー。・・・んー、これ、いまいち使い方がわかんないや。誰かに繋がってるのかな?繋がってないのかな?・・・まあ、どっちでもいいやって感じで。はい、へへへ。これ一回やってみたかったんだあ。『ただのドルチの物語』」

 

あるところにドルチという男がいた

彼はとてもすばらしい芸をもっていたので

人々は退屈することなく日々を送っていた

だけどそれとは裏腹に ドルチは疲れ切っていた

笑うことさえできなくなっていた

ある時ドルチが草原にたたずんでいると声をかけてくる女がいた

女は娼婦だった

ぼろぼろの布切れのようなものを身にまとい

布の間から見える肌はところどころ傷だらけだった

顔もやせ細っていてぼろぼろだったが なぜかドルチはその女に心を奪われた

気がつくと夢中で女に話をしていた

自分が今まで送ってきた人生のこと

踊ることをやめてしまいたいこと

女はぶっきらぼうだったがそれでも話を聞いてくれた

ドルチはうれしかった

その草原にいけば女はそこにいた

毎日毎日女に会えば心が癒される気がした

そう砕け散りそうな心を

ところがある時女はいなくなった

 

 

リリカコ、金池と繋いだ手をゆっくりと離し、どこかへ消える。金池、少し遅れてそのことに気づき、駆け回って探す。定食屋に辿り着き、いつもの席に座る。そして後ろを振り返るが、誰もいない。再び街を駆け回り、定食屋に辿り着き、いつもの席に座り、後ろを振り返る。これを繰り返す。動きは次第にシステマティックになっていく。

 

 

女はいなくなった 唐突に 何の前触れもなく

何日待っても現れることはなかった

女の行方は知る由もなかった

それでもドルチは待ち続けた

毎日毎日気の遠くなるような時間を

どのくらいの月日がたったのだろう

ふと思った

自分が変わることができれば女は戻ってくるかもしれないと

そうしてドルチは石を握りしめた

変身するための武器を

 

 

定食屋にて。金池、振り返るが、誰もいない。金池、うなだれる。

一方つむじの部屋では。

 

みったん 「・・・はい。というわけで、さっき見つけたんですけど、読んでみました。もしかしてだけど、あいつが書いたのかな?だとしたらウケる、へへへ。あいつ、初めてじゃないかな?出かけてます。洋服を買いに行くそうです。いやどういうこと?へへへ・・・みったん、さっきあいつから、もう来なくていいって言われたんですけど。ふう。・・・いやー、長かったなあ・・・。あ、みったん、妹さん?の代わり、やってたんですけど、責任とれって言われて。いやいやいや意味わかんないですよね?まあ、やらかしちゃったのはみったんだから、悪いのはこっちなんですけどね、・・・あ、ちょっと前にね、変な男の人、うん、たぶんすごい有名人?偉い人?に会ったんですよ。その人がしゃべりだしたら、みんな変な感じになっちゃって、わーってなって・・・よくわかんないですけど。その人の話もよくわかんなかったです。あ・・・でもなんかその人?前の前の前の、前の?彼氏に似てるなあって。いや何となくなんですけど。やたら話し長くて嘘ついてくる人?ん、まいっか、で、これ本題。一個だけ覚えてて。大事なもの放り投げろって言われたて考えたんですけど、これ、ないなあって。で、それがすごく怖いことに思えてきて何とかしなきゃって、んで。あいつにケガさせちゃったんですけど、ふへへ。・・・あいつに言われて思ったんですよ。みったんが投げた石は、未来のみったんに当たってたんだなあって。で、痛がってるうちは、何にも考えなくてすんでたんだなあって。はあ・・・またブラブラしようかなあ。ブラブラ、ブラブラ。・・・でも。もう、石は投げれません。だって、ぶつける未来、もうないらしいです。あいつが言ってました。だからこれからずっと、おしまいまで、石は持っときたいと思いまーす。よーし。以上みったんでした、ガオー。」

 

みったん、機器のスイッチを切った途端に表情をなくし、彷徨い出す。ゆっくりとゆっくりと踏みしめながら。それを腕に包帯を巻いた座員1が小走りで追い抜いていく。みったん、雑踏に紛れ消えていく。

一方定食屋では。金池が空虚な時間を浪費している。と、後ろの席に座るものが。金池、嬉々として振り返るが、座員1であることがわかり瞬時に表情を暗くする。

 

座員1  「何ねその顔?・・・元気や?」

金池   「・・・」

座員1  「ああ、大丈夫て、おらんくなったんは怒っとらんけん。てか、俺もなんもせんかったけん、(腕を見せて)手がこれでさ。みーんなおらんくなったけんさ、業者の片づけば、たーだ見よった。で、昨日やーっと終わった。」

金池   「・・・」

座員1  「で、TODAY(今日)、見事な廃墟です。・・・すごかよな?」

金池   「・・・」

座員1  「てかドルチて、お前こん前、街おったろ、女連れで。すみにおけんねえ。」

金池   「・・・」

座員1  「ばってん・・・あれ座長の娘さんだろ。なーんか複雑ではあるよね。」

金池   「(ゆっくりと振り返って)???」

座員1  「あれ?知らんだった?あれ、前の奥さんとの子どもさんよ。」

金池   「・・・」

座員1  「たまに一人、客席座っとらしたたい。弁当作って届けよらしたて。いじらしかよねー。で、俺、座長に頼まれてたい、お返しに宅配便でよ、バラの花ば送り寄ったんだけん。えらかど?」

金池   「(ぐるぐると頭が回りだして)・・・」

座員1  「お前のプレゼントも届けてやろっか?ははは。」

 

金池、ゆっくりと座員1に手を差し出す。

 

座員1  「は、マジで?自分で送れよ。え、知らんと?」

 

金池、座員2の胸ぐらをつかみ、激しく手を差し出す。

 

座員1  「うわ、何?え、住所?住所ね?わかったて、今出すけん、落ち着けって。・・・(携帯を触って金池にみせて)ほいこれ。」

 

金池、それを見て一瞬固まり、震えだす。そして駆け出す。店を出て、走って、走って、走って、走って。見覚えのあるアパートへたどり着く。入り口には誰もいない。金池、息を整えながら歩き、震える手でその部屋のドアノブを掴み、一気に回す。途端に鼻につく悪臭に金池、嘔吐する。薄暗い部屋で。誰かが横たわっており、傍らにボロボロの布切れをまとった年老いた女が呆けて立っており、その隣には、つむじが首をつってブラブラと揺れている。金池、腰が抜けて、その場にへたり込む。

 

女    「ねえ・・・息、しとらん。こん娘、息ばしとらん。だけんが。・・・千円ちょーだい。」

 

金池、横たわっている女に駆け寄り、何かを叫んでいる。金池は駆けつけてきた警官にすがり、何かを訴えるが全く話が通じず、暴れたところを連行されていく。集まってくる野次馬。年老いた女はボロボロの布を脱いでリリカコとなり運ばれていく。リリカコが横たえられた場所が病室のベッドとなり、一人の医者と看護師がそれを見つめている。

一方、つむじの部屋では。その騒ぎの中、取り残されてぶら下がったままのつむじが、突然しゃべりだす。

 

つむじ  「はい、というわけで。今回はいよいよ、一番気になってたトピック『僕の家族』について発信したいと思います。・・・もう、僕を見てくれる校長先生も教頭先生もどこにもいません。いませんと言うか、僕が死んじゃったんですけどね、ひひひ。でも、誰かに受け取られているという意識は損なわず、あえて、できるだけ客観的にお伝えしたいと思います。」

 

金池が病室にとぼとぼと現れ、リリカコのそばで蹲る。金池、イヤホンを耳に入れ、テレビをつける。

 

つむじ  「昨夜、熊本県戸塚市東真土のアパートで、借主の山内舵峰さん(あ、僕のことですね)が首をつって死亡しているのが発見されました。第一発見者は峰宏さんの義母・千恵子さんとのことです。舵峰さんの傍らには、千恵子さんの娘の理香子さんが首を絞められた状態で横たわっており、現在、とても危険な状態とのことです。舵峰さんの遺体のそばには「死にたい。一緒にいさせて」と書かれたメモがあり、無理心中と図ったものと見られていました。しかし、熊本県警が捜索に入ると、ロフトに置かれた段ボールの中に、ビニール袋に入った1人の男児、2人の乳幼児の、全部で3体の遺体が見つかりました。男児は服を着たまま白骨化し、乳幼児は液状化して・・・

医者   「金池さん、大丈夫ですか?金池さん?」

 

金池、我に返るとそこは病室。後ろ向きの医者と看護師、金池に呼びかけている。

一方つむじの部屋では。

 

つむじ  「いやいや、おーい。聞こえますか?話はここからいいところなんですけどね。おーい。・・・ま、いっか。・・・はあ、疲れた。ひさしぶりに、寝てみるか。」

 

つむじ、永遠に目を閉じる。

一方病室では。

 

医者    「それで、あのー・・・おつらいでしょうが、理香子さんは脳に申告なダメージを受けておられまして、目を覚ます可能性は高くないと言わざるを得ません。ただ、ですね。検査をしたところ、何といいますか、その。」

金池    「・・・」

医者    「(小声で)理香子さんは妊娠しておられます。」

金池    「?・・・」

医者    「こういう言い方は矛盾しているようですが、稀にあるケースでして、その。母体として考えて場合、そしてこちらがしかるべき処置を施し続けていくと仮定しますと、大変経過は良好と言えます。」

金池    「・・・」

医者    「いやはや。医者としてこのようなことを申し上げるのはどうかと思いますが、生き物が生きようとする力というのは、ある意味、かくも凄まじい。」

金池    「・・・」

医者    「そしてその力はとうとう最後の扉をこじ開けたのです。ところでお聞きしたいのですが、あなたは親戚の方ではありませんよね?」

金池    「・・・」

医者    「・・・ねえ。ドルチ君?」

 

医者と看護師が振り向くと、それは看護師の衣装を着た油喪ビッチと医者の衣装を着た裏井である。裏井、すぐに影の立ち位置に移動する。

 

ビッチ  「以上が。私が聞いた医者からの正確な申告だ。」

金池   「・・・」

ビッチ  「事件を聞いた時は柄にもなく、狼狽したよ。私にまだそのようなものが残っていることに驚きもした。だが。芸術の神が消えた今もなお、何かが、私に作品を完結させろと言っている。」

金池   「・・・」

ビッチ  「安心しなさい。全ては私が負担しよう。この子は、私の子どもなのだから。」

金池   「・・・」

ビッチ  「ああ。拝見したよ、あなたの芸。彼女は何やら評価していたが、何ということはない。ただ、蚊帳の外にいるだけ。彼女はアパートの隣人であっただけ。ただその生を終えるだけ、何一つわからないままに。」

金池   「(屈辱に震えて)・・・」

ビッチ  「そうだね。例えば・・・彼女に何があったのか、しかり。とある病気を人為的に発生させる方法、しかり。・・・それでは、また会おう、ドルチ君。」

金池  「・・・」

ビッチ  「(去り際に振り返って)ああ、それと。あなたの芸についてもう一つ。うらやましくもあったよ、ある意味でね。」

 

油喪ビッチ、裏井、去る。・・・うつむいて立ち尽くしていた金池が顔をあげると、そこはどこかの路上である。車の騒音、無味乾燥な雑踏。金池、ふと何かの声が聞こえた、ような気がする。

 

声    「あなたはきっと、踊ることをやめない。」

 

始めて金池の頭に。はっきりとした大きな音楽が流れる。金池、狂ったように踊りだす。今までの踊りと打って変わって、激しく、自爆的であり、ゆえに躍動的である。金池、踊り終える。・・・と、通りすがりの男が一人、恥ずかしそうに歩み寄ってきている。そして震える手で金池の手を握り、お金を渡して深々と礼をして去っていく。金池、初めてのことにしばらく呆然として、その湧き上がってくる感情を噛みしめる。やがて思いついたように渡されたお金で一輪のバラを買い、リリカコの病床に添える。再び音楽。金池、踊り、バラを買い、リリカコに添える。その繰り返しの日々の中で、少しずつ、確実に見る人が増えているようだ。買うバラの本数も増えていく。とうとう大輪のバラを買って両手に抱える。観客は彼をほおってはおかず、その際もずっと何かを求めるようについて来ている。と、幻影なのだろうか?リリカコの声がする。

 

リリカコ 「ドルチ。」

 

ドルチが振り向くと、観客の中にすっかりお腹が大きくなったリリカコがほほ笑んでいる。

 

リリカコ 「何ですか、その顔?・・・素晴らしかったですよ。」

 

金池、何度も何度も涙をぬぐいながら、リリカコに近づこうとする。

 

リリカコ 「ありがとう。・・・さようなら。」

 

リリカコ、いなくなる。追いかけようとするが観客に阻まれ、病室に駆けつける。そこには、もぬけの殻のベッドがあるだけである。金池、ベッドに何かが置いてあるのを見つける。それは、手紙の用だ。どこかから油喪ビッチと裏井が現れる。

 

ビッチ  「招待状。蚊帳の外のドルチ君。人間全部が入る墓石で。それが最も美しく見える時に。あなたを待ちます。」

 

ビッチ、裏井、去る。金池、病室を飛び出していく。

 

そこはどこかの昭和風クラブ。音楽に合わせて踊り狂うものが居たりおしゃべりをしているものが居たり。リリカコに連れられ金池も現れる。金池、落ち着かない様子。そこにいつのまにかぬるりと現れる男が。男の存在に一人また一人と気づき、会場は騒然となる。その中をまるで散歩するかのように歩く油喪ビッチ。少し離れたところに裏井の姿が。

 

ビッチ  「(仰々しく舞台調で)その繋がりを、断て。もう一度繰り返す。その繋がりを、断て。私は、あなたは、最後の進化、その目前まで来ている。その最終到達点の名前を、私は「孤立の島」と呼ぶ。(急に、通常の口調になって)・・・と、このように、声を荒げる必要などどこにもなく。かつて舞台の上の人々のように声やマイクの力に頼むのは、本来あなたたちと変わりがないから。そしてもはや舞台は死んだ。歌、絵画は死んだ。芸術は死んだ。いや、最初からそのようなものは存在したのだろうか。あの革命から10年がたった現在、乏しきもの搾り取った現状はどうだろう?残骸のようなあなたが残っただけ。行き止まりの海に阻まれ、あなたは後ろを振り返るだけ。・・・私以外は。私だけが、あなたの群れの先頭にいるのだから。海原の向こう側に、到達しようとしているのだから。たった一人が抜きん出、そのほかの全てがそれに倣う。進化とはそういったものだ。あなたが私を最先端、などという低劣な言葉で括ろうとしているのはとりあえず目をつぶろう。ここではっきりと断っておく。私は、アーティストではない。ただ、私の歩くところはこのような静寂があるだけ。そして何の力みも熱もなく、粛々と道を口にするだけ。私が、誰にも似ていない誰かであるだけ。しかしそれだけのことに、あなたはもう委ねようとしている。私は、ただそれを受け止めるだけ。」

 

クラブの中の一人の男性(つむじが演じる)が勇み、油喪ビッチにラップのフリースタ

イルでディスを始める。しばらくそれを見つめていた油喪ビッチ、思いっきりその男を

殴る。ざわつく場内。うめき声をあげる男を執拗に、繰り返し殴る。男、蹲って動かな

くなる。

 

ビッチ  「あなたは、客ではない。私がアーティストではないように。あなたと私には何の繋がりも、ない。ただ、私がここにあり、それをあなたが認識した瞬間に、何かが始まろうとしているだけ。そして彼を痛めたこの拳にも、何の感情などなく。同時に。私は私を殺める刃にも熱を持たず、が故についに死神との絆も断ち切ってしまった。私は死ねなくなったのだ。・・・そうだね、ここに拳銃がある。本物か偽物かはどちらでもいい。(皆の前でやって見せて)弾はこのように一発だけ入ってる。では・・・あなた。(殴った男を起こして銃を持たせて)弾倉は六つ。五回引き金を引くといい。・・・さあ。」

 

男、躊躇しているが、やがて奇声をあげて五回引き金を引く。・・・が、空砲である。

 

ビッチ  「熱があるね。引き金を引くのに、そのようなものは、」

 

油喪ビッチ、引き金を引く。銃声と天井の蛍光灯が割れる音。悲鳴。

 

ビッチ   「不要である。・・・拳銃が本物かいかさまなのか、どちらでもいい。はたまた、」

 

先ほど引き金を引いた男が笑顔で熱い視線を送っている。油喪ビッチ、その男を一瞥し

て、

 

ビッチ  「この男が私が用意したものだったのか、そうでないのか、それすら、どちらでもいい。そもそも。唯一を自称する私のこの語りがシェークスピア的古典技法によるものではないか?・・・どちらでもいい。私はただの気まぐれで、使い捨てられた過去を気まぐれにつまみ上げ、何の愛着もなく使い捨てるだけ。あなたはいつの間にか、一人残らず私の次の言葉を期待し、私の姿に胸を高揚させている。ただそれだけが、真実なのだ。さて。では何故、あなたは、私ではないのか。・・・繋がりにとらわれているからだ。あなたが歩む途中、からめとってしまった最も重い何か。あなたは感じているだろう、いつの間にかそれは自分の血肉になってしまった、と。断言しよう、それこそが錯覚の歴史である。あなたが留まるその場所が行き止まりではないことは、すでにあなたの直感が告げている。さあ、目を閉じて。あなたに絡まったものを思い浮かべて。その形を、重みを。それを両手に持ち・・・高く掲げるのだ。・・・では。(指を鳴らして)合図とともにそれを、私に放りなさい。私とあなたには繋がりは存在しない。そして私は私の価値すら断ち切っている。故に私はただの便器、でもある。繋がりを、断て。便器に排泄するが如き平常なる心において。そうしてあなたは沈むことなく海原を泳ぐだろう。やがて辿り着き、あの美しい音を全身で聞くだろう。いや、かすかに聞こえてはいないか?静寂以外を必要としないこの空間、そぐう音など存在しないこの現実に、あなたの中に直接響くこの音が。それは、あなたに進化を告げる音なのだ。」

 

そこに居る全員が何かの音を聞いているようだ。

 

ビッチ   「あえてこの言葉を使おう。『イッツショータイム』」

 

指を鳴らすと、そこに居る客が全員何かを油喪ビッチに一斉に投げる、ように見える。

両手を広げてそれを神か何かのように受け止める油喪ビッチ。

 

つむじ  「油喪ビッチ。」

 

男性キャスターの体で、つむじ現れる。

 

つむじ  「年齢不明、経歴不明。10年前に突如現れ、革命の炎を一人独占する男。彼の彼としての最初の作品は、」

 

仮面をつけサーカスの衣装ののようなものを身にまとった女が現れ、弓矢の弦を油喪ビ

ッチに渡し、設置した矢をもったまま全体重をかける。矢は油喪ビッチの心臓を向いて

いる。

 

つむじ  「長年連れ添ってきたと言われるパートナーの女性に自らの心臓を狙わせ、その時のお互いの呼吸音を拡大して聞かせるという、嘆かわしいものでした。女性は、ほとんど力を使わずに彼を殺すことができ、同時に彼が弦をもつことで、女性は彼に依存しているようにも見えます。この、自らの命を切り捨て淡々と素材にするかのようなパフォーマンスに人々は熱狂し、彼の躍進は始まったのです。そして三年前のパフォーマンス。」

 

油喪ビッチと女、端と端に立ち、ゆっくりと歩きだす。

 

つむじ  「彼は九州の最北、パートナーの女性は最南から同時に歩き始めました。二人は熊本県のとある地点で出会い、すれ違います。その際「さようなら」と一言だけ声を掛け合って。それが、現実の二人の永遠の別れとなったのです。」

 

仮面をつけた女、どこかへ去っていく。油喪ビッチは糸が切れた人形のように、客が

放り投げた何かにまみれたフロアに倒れ込む。

 

つむじ  「このパフォーマンスで、彼はパートナーとの繋がりを断つことを、あっさりと素材にしたのです。女性のその後は誰も知りません。いったい彼は、どこに到達しようとしているのでしょうか?」

 

チャイムの音がなり、つむじ、怪訝な顔で玄関の方へ去っていく。

一方フロアでは倒れている油喪ビッチ、金池、リリカコ、そして裏井。金池は、ただ

呆然としている。リリカコ、平然と油喪ビッチに近寄っていく。金池、慌てて

それを追いかける。

 

リリカコ 「・・・誰も、いなくなってしまいましたね。」

ビッチ  「ああ。人は枷が外れたその瞬間、ひた走る。・・・彼らはどこへ行くのだろう?そんなものは、」

二人   「どちらでもいい。」

ビッチ  「だが、あなたは唯一そうではない。私にとって。」

 

油喪ビッチ、ぬるり立ち上がってリリカコに異常なほど近づき、じっと見つめる。

 

リリカコ 「・・・光栄です。」

ビッチ  「あなたの『唯一』は。『唯一』のない世界の扉を開ける。」

リリカコ 「お久しぶり、ですね。」

ビッチ  「そうだね・・・リリカコ。」

リリカコ 「堪能しました。特に胸が震えたのは、過去に対する勤勉さが逆に垣間・・・」

ビッチ  「(すぐに静止して)評価は必要ない。重要なのはこの静寂と、あなたがここにいるという事実。それだけ。」

リリカコ 「あの、彼も」

金池   「(惨めにお辞儀をして)・・・」

ビッチ  「(金池には一瞥もせずリリカコの体を触り始めて)それにあの作品は。まだ完結してはいない。フィナーレは、これから始まるのだ。」

リリカコ 「?あの、」

ビッチ  「(さらに深く触りながら)・・・わかる。前に会った時よりさらに・・・深まっているね。稀にいる『からめとりの糸』を持たない人。」

リリカコ 「あの・・・あの。」

ビッチ  「あなたは糸を持たない。何も、誰も、あなたとは繋がらない。・・・だが、唯一たらしめているのは、あなたがそれでも誰より求めてしまうから。・・・舌を出して。」

 

リリカコ、湧き上がってくるさまざまな感情に震えながら舌を出す。それをじっくりと

凝視する油喪ビッチ。が、ふいに、

 

ビッチ  「頃合いだ。」

 

油喪ビッチ、リリカコの手を引き、どこかへ連れて行こうとする。リリカコ、一度だけ

金池を振り返って手を伸ばそうとしている、ように見える。金池も手を伸ばそうとする

が、できない。二人はどこかに消え、金池はただ立ち尽くしている。

と、つむじの部屋では。つむじが頭から血を流して、ふらふらと現れ、ゆっくりと倒れ

る。それを追うように覆面をつけた男(座員1)が木材をもって現れる。が部屋に入っ

た瞬間、強烈な臭気に嗚咽する。

 

座員1? 「おええっ・・・くっせ、くっせ。・・・何やこの部屋?おええっ。」

 

男の後から、みったんが現れる。

 

みったん 「・・・こんなもんじゃないよ。もっと頑張ってよ。」

 

男、ふらつきながらも、倒れているつむじに追撃をしようとする。しかし不意につむじ

立ち上がり、手に持ったカッターナイフで男の腕を切る。男、木材を落として悲鳴をあ

げながら逃げていく。みったん、木材を拾いつむじに攻撃をしようとするが、逆に背後

に回られ身動きができない状態にされる。

 

みったん 「離して。離せよこのキチガイ。」

つむじ  「はい。」

 

つむじ、あっさりとみったんを離す。

 

みったん 「え?・・・なんで?」

つむじ  「責任、まだとってもらってませんから。」

みったん 「いや。だからそれ。どうすれば?・・・みったん、頑張ってきました。どうすれば終わるんですか?」

つむじ  「へえ、僕はてっきり、」

みったん 「みったんは、あなたの妹じゃありません。違いますから。だから。」

つむじ  「てっきり、終わりたくないんだと思ってました。」

みったん 「キチガイ。キチガイ。」

つむじ  「僕を殺そうと思ったんですか?殺せば逃げれると?・・・(木材をもって)こんなもので?まあ、あの、すごく痛くはあるんですけど。」

みったん 「・・・」

つむじ  「僕は生きてますし。詰まるところ、現状は何も変わっていませんよ。・・・あ、やっぱり痛い。ちょっと膝、お願いします。」

 

つむじ、みったんの膝に頭を乗せる。みったん震えながらも何もしようとしない。

 

つむじ  「ねえ。本当に、逃げようとしてました?」

 

一方金池が座り込むと、それはどこかの路上である。雑踏、その中にはマスク、手袋を着用している人も多い。金池、虚ろな顔で蹲っていく。と、そこに真っ暗な顔をしたリリカコが現れ、しばらく金池を見ているが、やがて、背中越しに座る。金池、後ろにいるのがリリカコであることを理解し、振り向こうとする、が、できない。リリカコ、最初はかすかに、やがてはっきりと熱を帯びてリンドウの「優しいはさみ」を歌い出す。最初はびっくりとする金池だが、その美しい歌声に目をつぶって聞き入る。やがて・・・歌が終わる。誰かが拍手をしている音が聞こえる。少しだけ、笑顔になるリリカコ。が、すぐにまたただの雑踏の音に戻る。

 

リリカコ 「・・・ありがとう。・・・さようなら。」

金池   「・・・」

リリカコ 「昔、いたらしいですよ。路上でこんな風に歌う人。」

金池   「・・・」

リリカコ 「どんな気持ちだったんでしょう?私も何度かやってはみたんですけれど。」

金池   「・・・」

リリカコ 「誰も私とは関係ない。それがわかるだけでした。私の前を、ただどこかからどこかに、通り過ぎるだけ。」

金池   「・・・」

リリカコ 「ああ・・・」

金池   「?・・・」

リリカコ 「すれ違わう人たちみんなを。みんなの人生を。全部、捕まえてしまえれたらいいのに。」

 

リリカコ、金池の背中にもたれかかる。

 

リリカコ 「でもあなたはきっと、踊ることをやめない。・・・哀しいなあ。哀しいです。」

金池   「・・・」

リリカコ 「今この瞬間だけでも、あなたと私が別々の一人じゃないのなら。そう見えないのなら。言ってもいいでしょうか?『私たちは』『誰とも』『関係』『ない』ははは・・・。」

金池   「(少しだけ笑って)・・・」

リリカコ 「ははは。嬉しいなあ。嬉しいなあ。」

 

リリカコ、立ち上がり、同じ言葉を雑踏に向けて繰り返す。そして、笑う。と、雑踏の中の速足の男にぶつかり、リリカコ尻もちをつく。男の顔はフードに隠れ、両手には布に包まれた何かを大事そうに抱えている。一瞬の幻想。男は振り返り、二人の方に威嚇したような顔を向ける。それを見てリリカコは蒼白な表情で何かをつぶやく。・・・男、去っていく。リリカコしばし呆然と蹲っているが、やがて暗い表情で再び笑い始める。

 

リリカコ 「ははは。」

金池   「・・・」

リリカコ 「ああ・・・私、バカでした。」

金池   「?・・・」

リリカコ 「当たり前のことに今頃。(歩く人を指さして)・・・あの人も。あの人も。みんなどこかから来て・・・最後は、自分の家に帰るんだ。」

金池   「・・・」

リリカコ 「私も、帰らなきゃ。帰らなきゃ、うちに。・・・うちに、帰ろう。うちに、帰ろう。」

金池   「・・・」

リリカコ 「・・・お願いがあります。」

金池   「?・・・」

リリカコ 「・・・ドルチって、呼んでもいいですか?」

金池   「・・・」

リリカコ 「・・・呼びたいんです。」

金池   「・・・(優しく頷く)」

リリカコ 「ありがとう。・・・(金池の顔をじっと見て)ドルチ。」

金池   「(にっこりと笑って)・・・」

リリカコ 「ドルチ。」

金池   「(頷いて)・・・」

リリカコ 「ドルチ。・・・私は。私は。」

金池   「(遮るようにリリカコの両の頬に触れて)・・・」

リリカコ 「ドルチ。(自分の中の何かをふり絞るように)ドルチドルチドルチドルチドルチドルチドルチドルチドルチドルチ・・・」

 

金池とリリカコ、深く抱き合う。リリカコ嗚咽して、繰り返し金池の背中を探る。

金池、懸命にそれを受け止める。

一方、つむじの部屋。つむじはどこにもいない。みったんがつむじの機器に向かってし

ゃべり始める。

 

みったん 「みったんだぞ、ガオー。・・・これ、いまいち使い方がわかんないや。これ、誰かに繋がってるのかな?繋がってないのかな?・・・まあ、どっちでもいいやって感じで。はい。あの男は、珍しく家に居ません。服を買いに行くとか言ってました。で、みったん、そいつに、もう来なくていいって言われたんですけど。・・・はい。長かったなあ・・・。もうどのくらいたったのか忘れちゃいました。あ、みったん、そいつに責任とれって言われて、妹の代わりをしてたんですけど、いやちょっとみったんも、どういうことなのかわかんないんですけど。あ、みったんがやらかしちゃったから、悪いのはこっちなんですけど。はい。・・・ヤバい。何かあるかなって思ったんですけど、特にないや。特にない自分にびっくりなんですけど。・・・あ、ちょっと前にね、踊るとこ、クラブ?に行ってきたんですけど、そしたら途中で変な男の人が出てきて、そしたらみんな変な感じになっていなくなっちゃんですけど、その人が何かしゃべってたんですけど…よくわかんなかったなあ。あ、でもなんか前の前の前の?彼氏に似てるなあって。いや何となくなんですけど。やたら話し長くて嘘つく人。あ、でも一個だけ。これ本題。だいじなものほうりなげろっていわれてかんがえたんですけど、みったん、なんもないなあって。で、それがすごく怖いことに思えてきて何とかしなきゃなあって、あいつにケガさせちゃったんですけど。・・・はあ。でわかったんです。みったんはがまんができなくなったらいしなげてたんですけど、それ、あたるのはみらいのじぶんなんだなって。

 


では最後に未来の予告などをして

過去の整理シリーズを終えたいと思います。

ポークパンダ三歳の第3回公演のタイトルは・・・
BN-BU946_0307_s_G_20140307034849
「謝です。

これ、実はかなり早い段階で脚本は完成しており、

しかしながらやむにやまれぬ事情で数年保留になっていたものでした。

この第3回公演を一区切りとし、

ポークパンダ三歳は新たな方向に向かう…予定です。

ちなみに上演は来年になると思います。

皆様、その時はどうぞよろしくお願いします。



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