そこはどこかの昭和風クラブ。音楽に合わせて踊り狂うものが居たりおしゃべりをしているものが居たり。リリカコに連れられ金池も現れる。金池、落ち着かない様子。そこにいつのまにかぬるりと現れる男が。男の存在に一人また一人と気づき、会場は騒然となる。その中をまるで散歩するかのように歩く油喪ビッチ。少し離れたところに裏井の姿が。

 

ビッチ  「(仰々しく舞台調で)その繋がりを、断て。もう一度繰り返す。その繋がりを、断て。私は、あなたは、最後の進化、その目前まで来ている。その最終到達点の名前を、私は「孤立の島」と呼ぶ。(急に、通常の口調になって)・・・と、このように、声を荒げる必要などどこにもなく。かつて舞台の上の人々のように声やマイクの力に頼むのは、本来あなたたちと変わりがないから。そしてもはや舞台は死んだ。歌、絵画は死んだ。芸術は死んだ。いや、最初からそのようなものは存在したのだろうか。あの革命から10年がたった現在、乏しきもの搾り取った現状はどうだろう?残骸のようなあなたが残っただけ。行き止まりの海に阻まれ、あなたは後ろを振り返るだけ。・・・私以外は。私だけが、あなたの群れの先頭にいるのだから。海原の向こう側に、到達しようとしているのだから。たった一人が抜きん出、そのほかの全てがそれに倣う。進化とはそういったものだ。あなたが私を最先端、などという低劣な言葉で括ろうとしているのはとりあえず目をつぶろう。ここではっきりと断っておく。私は、アーティストではない。ただ、私の歩くところはこのような静寂があるだけ。そして何の力みも熱もなく、粛々と道を口にするだけ。私が、誰にも似ていない誰かであるだけ。しかしそれだけのことに、あなたはもう委ねようとしている。私は、ただそれを受け止めるだけ。」

 

クラブの中の一人の男性(つむじが演じる)が勇み、油喪ビッチにラップのフリースタ

イルでディスを始める。しばらくそれを見つめていた油喪ビッチ、思いっきりその男を

殴る。ざわつく場内。うめき声をあげる男を執拗に、繰り返し殴る。男、蹲って動かな

くなる。

 

ビッチ  「あなたは、客ではない。私がアーティストではないように。あなたと私には何の繋がりも、ない。ただ、私がここにあり、それをあなたが認識した瞬間に、何かが始まろうとしているだけ。そして彼を痛めたこの拳にも、何の感情などなく。同時に。私は私を殺める刃にも熱を持たず、が故についに死神との絆も断ち切ってしまった。私は死ねなくなったのだ。・・・そうだね、ここに拳銃がある。本物か偽物かはどちらでもいい。(皆の前でやって見せて)弾はこのように一発だけ入ってる。では・・・あなた。(殴った男を起こして銃を持たせて)弾倉は六つ。五回引き金を引くといい。・・・さあ。」

 

男、躊躇しているが、やがて奇声をあげて五回引き金を引く。・・・が、空砲である。

 

ビッチ  「熱があるね。引き金を引くのに、そのようなものは、」

 

油喪ビッチ、引き金を引く。銃声と天井の蛍光灯が割れる音。悲鳴。

 

ビッチ   「不要である。・・・拳銃が本物かいかさまなのか、どちらでもいい。はたまた、」

 

先ほど引き金を引いた男が笑顔で熱い視線を送っている。油喪ビッチ、その男を一瞥し

て、

 

ビッチ  「この男が私が用意したものだったのか、そうでないのか、それすら、どちらでもいい。そもそも。唯一を自称する私のこの語りがシェークスピア的古典技法によるものではないか?・・・どちらでもいい。私はただの気まぐれで、使い捨てられた過去を気まぐれにつまみ上げ、何の愛着もなく使い捨てるだけ。あなたはいつの間にか、一人残らず私の次の言葉を期待し、私の姿に胸を高揚させている。ただそれだけが、真実なのだ。さて。では何故、あなたは、私ではないのか。・・・繋がりにとらわれているからだ。あなたが歩む途中、からめとってしまった最も重い何か。あなたは感じているだろう、いつの間にかそれは自分の血肉になってしまった、と。断言しよう、それこそが錯覚の歴史である。あなたが留まるその場所が行き止まりではないことは、すでにあなたの直感が告げている。さあ、目を閉じて。あなたに絡まったものを思い浮かべて。その形を、重みを。それを両手に持ち・・・高く掲げるのだ。・・・では。(指を鳴らして)合図とともにそれを、私に放りなさい。私とあなたには繋がりは存在しない。そして私は私の価値すら断ち切っている。故に私はただの便器、でもある。繋がりを、断て。便器に排泄するが如き平常なる心において。そうしてあなたは沈むことなく海原を泳ぐだろう。やがて辿り着き、あの美しい音を全身で聞くだろう。いや、かすかに聞こえてはいないか?静寂以外を必要としないこの空間、そぐう音など存在しないこの現実に、あなたの中に直接響くこの音が。それは、あなたに進化を告げる音なのだ。」

 

そこに居る全員が何かの音を聞いているようだ。

 

ビッチ   「あえてこの言葉を使おう。『イッツショータイム』」

 

指を鳴らすと、そこに居る客が全員何かを油喪ビッチに一斉に投げる、ように見える。

両手を広げてそれを神か何かのように受け止める油喪ビッチ。

 

つむじ  「油喪ビッチ。」

 

男性キャスターの体で、つむじ現れる。

 

つむじ  「年齢不明、経歴不明。10年前に突如現れ、革命の炎を一人独占する男。彼の彼としての最初の作品は、」

 

仮面をつけサーカスの衣装ののようなものを身にまとった女が現れ、弓矢の弦を油喪ビ

ッチに渡し、設置した矢をもったまま全体重をかける。矢は油喪ビッチの心臓を向いて

いる。

 

つむじ  「長年連れ添ってきたと言われるパートナーの女性に自らの心臓を狙わせ、その時のお互いの呼吸音を拡大して聞かせるという、嘆かわしいものでした。女性は、ほとんど力を使わずに彼を殺すことができ、同時に彼が弦をもつことで、女性は彼に依存しているようにも見えます。この、自らの命を切り捨て淡々と素材にするかのようなパフォーマンスに人々は熱狂し、彼の躍進は始まったのです。そして三年前のパフォーマンス。」

 

油喪ビッチと女、端と端に立ち、ゆっくりと歩きだす。

 

つむじ  「彼は九州の最北、パートナーの女性は最南から同時に歩き始めました。二人は熊本県のとある地点で出会い、すれ違います。その際「さようなら」と一言だけ声を掛け合って。それが、現実の二人の永遠の別れとなったのです。」

 

仮面をつけた女、どこかへ去っていく。油喪ビッチは糸が切れた人形のように、客が

放り投げた何かにまみれたフロアに倒れ込む。

 

つむじ  「このパフォーマンスで、彼はパートナーとの繋がりを断つことを、あっさりと素材にしたのです。女性のその後は誰も知りません。いったい彼は、どこに到達しようとしているのでしょうか?」

 

チャイムの音がなり、つむじ、怪訝な顔で玄関の方へ去っていく。

一方フロアでは倒れている油喪ビッチ、金池、リリカコ、そして裏井。金池は、ただ

呆然としている。リリカコ、平然と油喪ビッチに近寄っていく。金池、慌てて

それを追いかける。

 

リリカコ 「・・・誰も、いなくなってしまいましたね。」

ビッチ  「ああ。人は枷が外れたその瞬間、ひた走る。・・・彼らはどこへ行くのだろう?そんなものは、」

二人   「どちらでもいい。」

ビッチ  「だが、あなたは唯一そうではない。私にとって。」

 

油喪ビッチ、ぬるり立ち上がってリリカコに異常なほど近づき、じっと見つめる。

 

リリカコ 「・・・光栄です。」

ビッチ  「あなたの『唯一』は。『唯一』のない世界の扉を開ける。」

リリカコ 「お久しぶり、ですね。」

ビッチ  「そうだね・・・リリカコ。」

リリカコ 「堪能しました。特に胸が震えたのは、過去に対する勤勉さが逆に垣間・・・」

ビッチ  「(すぐに静止して)評価は必要ない。重要なのはこの静寂と、あなたがここにいるという事実。それだけ。」

リリカコ 「あの、彼も」

金池   「(惨めにお辞儀をして)・・・」

ビッチ  「(金池には一瞥もせずリリカコの体を触り始めて)それにあの作品は。まだ完結してはいない。フィナーレは、これから始まるのだ。」

リリカコ 「?あの、」

ビッチ  「(さらに深く触りながら)・・・わかる。前に会った時よりさらに・・・深まっているね。稀にいる『からめとりの糸』を持たない人。」

リリカコ 「あの・・・あの。」

ビッチ  「あなたは糸を持たない。何も、誰も、あなたとは繋がらない。・・・だが、唯一たらしめているのは、あなたがそれでも誰より求めてしまうから。・・・舌を出して。」

 

リリカコ、湧き上がってくるさまざまな感情に震えながら舌を出す。それをじっくりと

凝視する油喪ビッチ。が、ふいに、

 

ビッチ  「頃合いだ。」

 

油喪ビッチ、リリカコの手を引き、どこかへ連れて行こうとする。リリカコ、一度だけ

金池を振り返って手を伸ばそうとしている、ように見える。金池も手を伸ばそうとする

が、できない。二人はどこかに消え、金池はただ立ち尽くしている。

と、つむじの部屋では。つむじが頭から血を流して、ふらふらと現れ、ゆっくりと倒れ

る。それを追うように覆面をつけた男(座員1)が木材をもって現れる。が部屋に入っ

た瞬間、強烈な臭気に嗚咽する。

 

座員1? 「おええっ・・・くっせ、くっせ。・・・何やこの部屋?おええっ。」

 

男の後から、みったんが現れる。

 

みったん 「・・・こんなもんじゃないよ。もっと頑張ってよ。」

 

男、ふらつきながらも、倒れているつむじに追撃をしようとする。しかし不意につむじ

立ち上がり、手に持ったカッターナイフで男の腕を切る。男、木材を落として悲鳴をあ

げながら逃げていく。みったん、木材を拾いつむじに攻撃をしようとするが、逆に背後

に回られ身動きができない状態にされる。

 

みったん 「離して。離せよこのキチガイ。」

つむじ  「はい。」

 

つむじ、あっさりとみったんを離す。

 

みったん 「え?・・・なんで?」

つむじ  「責任、まだとってもらってませんから。」

みったん 「いや。だからそれ。どうすれば?・・・みったん、頑張ってきました。どうすれば終わるんですか?」

つむじ  「へえ、僕はてっきり、」

みったん 「みったんは、あなたの妹じゃありません。違いますから。だから。」

つむじ  「てっきり、終わりたくないんだと思ってました。」

みったん 「キチガイ。キチガイ。」

つむじ  「僕を殺そうと思ったんですか?殺せば逃げれると?・・・(木材をもって)こんなもので?まあ、あの、すごく痛くはあるんですけど。」

みったん 「・・・」

つむじ  「僕は生きてますし。詰まるところ、現状は何も変わっていませんよ。・・・あ、やっぱり痛い。ちょっと膝、お願いします。」

 

つむじ、みったんの膝に頭を乗せる。みったん震えながらも何もしようとしない。

 

つむじ  「ねえ。本当に、逃げようとしてました?」

 

一方金池が座り込むと、それはどこかの路上である。雑踏、その中にはマスク、手袋を着用している人も多い。金池、虚ろな顔で蹲っていく。と、そこに真っ暗な顔をしたリリカコが現れ、しばらく金池を見ているが、やがて、背中越しに座る。金池、後ろにいるのがリリカコであることを理解し、振り向こうとする、が、できない。リリカコ、最初はかすかに、やがてはっきりと熱を帯びてリンドウの「優しいはさみ」を歌い出す。最初はびっくりとする金池だが、その美しい歌声に目をつぶって聞き入る。やがて・・・歌が終わる。誰かが拍手をしている音が聞こえる。少しだけ、笑顔になるリリカコ。が、すぐにまたただの雑踏の音に戻る。

 

リリカコ 「・・・ありがとう。・・・さようなら。」

金池   「・・・」

リリカコ 「昔、いたらしいですよ。路上でこんな風に歌う人。」

金池   「・・・」

リリカコ 「どんな気持ちだったんでしょう?私も何度かやってはみたんですけれど。」

金池   「・・・」

リリカコ 「誰も私とは関係ない。それがわかるだけでした。私の前を、ただどこかからどこかに、通り過ぎるだけ。」

金池   「・・・」

リリカコ 「ああ・・・」

金池   「?・・・」

リリカコ 「すれ違わう人たちみんなを。みんなの人生を。全部、捕まえてしまえれたらいいのに。」

 

リリカコ、金池の背中にもたれかかる。

 

リリカコ 「でもあなたはきっと、踊ることをやめない。・・・哀しいなあ。哀しいです。」

金池   「・・・」

リリカコ 「今この瞬間だけでも、あなたと私が別々の一人じゃないのなら。そう見えないのなら。言ってもいいでしょうか?『私たちは』『誰とも』『関係』『ない』ははは・・・。」

金池   「(少しだけ笑って)・・・」

リリカコ 「ははは。嬉しいなあ。嬉しいなあ。」

 

リリカコ、立ち上がり、同じ言葉を雑踏に向けて繰り返す。そして、笑う。と、雑踏の中の速足の男にぶつかり、リリカコ尻もちをつく。男の顔はフードに隠れ、両手には布に包まれた何かを大事そうに抱えている。一瞬の幻想。男は振り返り、二人の方に威嚇したような顔を向ける。それを見てリリカコは蒼白な表情で何かをつぶやく。・・・男、去っていく。リリカコしばし呆然と蹲っているが、やがて暗い表情で再び笑い始める。

 

リリカコ 「ははは。」

金池   「・・・」

リリカコ 「ああ・・・私、バカでした。」

金池   「?・・・」

リリカコ 「当たり前のことに今頃。(歩く人を指さして)・・・あの人も。あの人も。みんなどこかから来て・・・最後は、自分の家に帰るんだ。」

金池   「・・・」

リリカコ 「私も、帰らなきゃ。帰らなきゃ、うちに。・・・うちに、帰ろう。うちに、帰ろう。」

金池   「・・・」

リリカコ 「・・・お願いがあります。」

金池   「?・・・」

リリカコ 「・・・ドルチって、呼んでもいいですか?」

金池   「・・・」

リリカコ 「・・・呼びたいんです。」

金池   「・・・(優しく頷く)」

リリカコ 「ありがとう。・・・(金池の顔をじっと見て)ドルチ。」

金池   「(にっこりと笑って)・・・」

リリカコ 「ドルチ。」

金池   「(頷いて)・・・」

リリカコ 「ドルチ。・・・私は。私は。」

金池   「(遮るようにリリカコの両の頬に触れて)・・・」

リリカコ 「ドルチ。(自分の中の何かをふり絞るように)ドルチドルチドルチドルチドルチドルチドルチドルチドルチドルチ・・・」

 

金池とリリカコ、深く抱き合う。リリカコ嗚咽して、繰り返し金池の背中を探る。

金池、懸命にそれを受け止める。

一方、つむじの部屋。つむじはどこにもいない。みったんがつむじの機器に向かってし

ゃべり始める。

 

みったん 「みったんだぞ、ガオー。・・・これ、いまいち使い方がわかんないや。これ、誰かに繋がってるのかな?繋がってないのかな?・・・まあ、どっちでもいいやって感じで。はい。あの男は、珍しく家に居ません。服を買いに行くとか言ってました。で、みったん、そいつに、もう来なくていいって言われたんですけど。・・・はい。長かったなあ・・・。もうどのくらいたったのか忘れちゃいました。あ、みったん、そいつに責任とれって言われて、妹の代わりをしてたんですけど、いやちょっとみったんも、どういうことなのかわかんないんですけど。あ、みったんがやらかしちゃったから、悪いのはこっちなんですけど。はい。・・・ヤバい。何かあるかなって思ったんですけど、特にないや。特にない自分にびっくりなんですけど。・・・あ、ちょっと前にね、踊るとこ、クラブ?に行ってきたんですけど、そしたら途中で変な男の人が出てきて、そしたらみんな変な感じになっていなくなっちゃんですけど、その人が何かしゃべってたんですけど…よくわかんなかったなあ。あ、でもなんか前の前の前の?彼氏に似てるなあって。いや何となくなんですけど。やたら話し長くて嘘つく人。あ、でも一個だけ。これ本題。だいじなものほうりなげろっていわれてかんがえたんですけど、みったん、なんもないなあって。で、それがすごく怖いことに思えてきて何とかしなきゃなあって、あいつにケガさせちゃったんですけど。・・・はあ。でわかったんです。みったんはがまんができなくなったらいしなげてたんですけど、それ、あたるのはみらいのじぶんなんだなって。